2015年3月15日日曜日

ベクトルの内積はなぜcosで定義されるのか。

高校の教科書では、$\vec{a}$と$\vec{b}$の成す角が$\theta$のとき、内積$\vec{a}\cdot \vec{b}$を次のように定義するとあります。

\begin{equation*}
\vec{a} \cdot \vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos \theta
\end{equation*}

しかし、教科書にはその理由が書いてありません。



本稿では、なぜベクトルの内積がこのように定義されるのかを考えます。なお、本稿では、向きと大きさを持つベクトル量に対して、向きを持たない量をスカラ量と呼びます。

必要な知識
- 余弦定理
- ベクトルの基本的性質




実数$a,b$について


\begin{equation}
(a-b)^2=a^2+b^2-2ab \\
\end{equation}

は常に成立している。これを見習ってベクトル$\vec{a},\vec{b}$について


\begin{equation}
| \vec{a} - \vec{b} |^2 = | \vec{a} |^2 + | \vec{b} |^2 - 2 \vec{a} \cdot \vec{b} \\
\end{equation}

が成立していれば、都合がよさそうである。そのため、これをみたす$\vec{a} \cdot \vec{b} $を$\vec{a}$と$\vec{b}$の内積の定義としよう。

高校で習う定義と違うじゃないか!と思うかもしれないが、慌てずに下の説明を読んでほしい。

図のような、辺の長さがそれぞれ$|\vec{a}|,|\vec{b}|,|\vec{a}-\vec{b}|$である三角形を考える(図では矢印で辺を表しているが、三角形と思ってよい)。

ここで、余弦定理を用いれば、


\begin{equation*}
|\vec{a}-\vec{b}|^2=|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-2|\vec{a}||\vec{b}|\cos \theta \\
\end{equation*}

である。これを式(2)と比較すれば、教科書にある内積の定義

\begin{equation*}
\vec{a} \cdot \vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos \theta
\end{equation*}

となることが分かる。

このように、ベクトルの内積の定義に$\cos$が現れる理由は、スカラ量に成立する関係(1)に近い関係(2)がベクトル量においても成立することを要請することにある。

ところで、このように定義されたベクトル量はスカラ量であることに注意しよう。
ベクトル同士の加法・減法はベクトルになったのに対し、ベクトル同士の内積はベクトルにはならない

実はベクトル同士の積の定義は二通りあり、1つは今回扱った積がスカラになる内積、もう1つは積がベクトルになる外積と呼ばれる定義だ。

外積については他の記事で触れることにしよう。

なお、大学数学(たとえば線形代数学)では「ベクトル」の定義が高校までと大きく異なることに注意されたい。




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