\begin{equation*}
\frac{a+b}{2}
\end{equation*}
と定義され、相乗平均(幾何平均)は
\begin{equation*}
\sqrt{ab}
\end{equation*}
で定義されることは高校の教科書に載っています。また、あまり知られていませんが、調和平均というものも存在し、これは
\begin{equation*}
\frac{2}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}}
\end{equation*}
で定義されています。この調和平均は、平均の速さを求める問題や、ばね定数の直列合成、並列回路における抵抗値の計算などにおいて利用されています。調和平均がどこで用いられているかは稿を改めます。
相乗平均の方が相加平均よりも小さくなるという「相加・相乗平均の関係」は知られていますが、調和平均を含めた「相加・相乗・調和平均の関係」というものがあります。
結論を書けば、
\begin{equation*}
調和平均 \leq 相乗平均 \leq 相加平均
\end{equation*}
となるのですが、本稿ではこの関係を証明します。
必要な知識
- 簡単な不等式の証明
- 相加・相乗平均の関係
- 3次関数の増減表
相乗平均≦相加平均
まずは、復習がてら、「相乗平均≦相加平均」を示す。方法はいくつかあるが、教科書にもあるような標準的なメソッドをとる。二つの正の数$a,b$に関して、
\begin{equation}
\sqrt{ab} \leq \frac{a+b}{2}
\end{equation}
を示したい。両辺に2をかけて整理した式
\begin{equation*}
a+b-2\sqrt{ab} \geq 0
\end{equation*}
が示せれば、良い。この式の左辺は、
\begin{equation*}
a-2\sqrt{ab}+b = \left( \sqrt{a}-\sqrt{b} \right)^2
\end{equation*}
とかける。実数の二乗は必ず0以上になるので、
\begin{equation*}
\left( \sqrt{a}-\sqrt{b} \right)^2 \geq 0
\end{equation*}
より、相加相乗平均の関係が示せた。
尚、等号が成立するのは$a=b$の時に限る。
調和平均≦相乗平均
次に、調和平均≦相乗平均を示す。これは、相加相乗平均の関係を用いてすぐ示せる。正の値$a,b$に対する調和平均を$s$とかけば、調和平均の定義は
\begin{eqnarray*}
s &=& \frac{2}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}} \\
\end{eqnarray*}
であり、逆数をとれば、
\begin{eqnarray*}
\frac{1}{s} &=& \frac{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}}{2} \\
\end{eqnarray*}
となることがわかる。両辺に2をかけた式
\begin{eqnarray*}
\frac{2}{s} &=& \frac{1}{a} + \frac{1}{b}
\end{eqnarray*}
の右辺において、$\frac{1}{a},\frac{1}{b}$という二つの正の数についての相加相乗平均の関係を用いれば、
\begin{eqnarray*}
\frac{2}{s} &=& \frac{1}{a} + \frac{1}{b} \geq 2\sqrt{\frac{1}{ab}}
\end{eqnarray*}
となる。ふたたび逆数をとって両辺をかければ
\begin{eqnarray*}
s \leq \sqrt{ab}
\end{eqnarray*}
となる。左辺は調和平均で右辺は相乗平均であるから、相乗調和平均の関係が示せた。なお、等号が成立するのは、
\begin{eqnarray*}
s = \frac{2ab}{a+b} = \sqrt{ab}
\end{eqnarray*}
をみたす場合、すなわち
\begin{eqnarray*}
\sqrt{ab}(a+b) &=& 2ab \\
ab(a+b)^2 &=& 4a^2b^2 \\
a^2+2ab+b^2 &=& 4ab \\
(a-b)^2&=&0
\end{eqnarray*}
が満たされる場合であるから、$a=b$のときである。
s &=& \frac{2}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}} \\
\end{eqnarray*}
であり、逆数をとれば、
\begin{eqnarray*}
\frac{1}{s} &=& \frac{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}}{2} \\
\end{eqnarray*}
となることがわかる。両辺に2をかけた式
\begin{eqnarray*}
\frac{2}{s} &=& \frac{1}{a} + \frac{1}{b}
\end{eqnarray*}
の右辺において、$\frac{1}{a},\frac{1}{b}$という二つの正の数についての相加相乗平均の関係を用いれば、
\begin{eqnarray*}
\frac{2}{s} &=& \frac{1}{a} + \frac{1}{b} \geq 2\sqrt{\frac{1}{ab}}
\end{eqnarray*}
となる。ふたたび逆数をとって両辺をかければ
\begin{eqnarray*}
s \leq \sqrt{ab}
\end{eqnarray*}
となる。左辺は調和平均で右辺は相乗平均であるから、相乗調和平均の関係が示せた。なお、等号が成立するのは、
\begin{eqnarray*}
s = \frac{2ab}{a+b} = \sqrt{ab}
\end{eqnarray*}
をみたす場合、すなわち
\begin{eqnarray*}
\sqrt{ab}(a+b) &=& 2ab \\
ab(a+b)^2 &=& 4a^2b^2 \\
a^2+2ab+b^2 &=& 4ab \\
(a-b)^2&=&0
\end{eqnarray*}
が満たされる場合であるから、$a=b$のときである。
調和平均≦相乗平均≦相加平均
以上の議論から、
\begin{equation*}
\frac{2}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}} \leq \sqrt{ab} \leq \frac{a+b}{2}
\end{equation*}
という相加・相乗・調和平均の関係が示せた。なお、等号で結ばれるのは、$a=b$のときである。
なお、実際に二つのデータにおいて相加・相乗・調和平均が成り立っていることの例として、学生の評定についての記事を書いたので参考にして欲しい(詳細)。
ここではデータ数が3の場合についても相加・相乗・調和平均の関係が成立していることを証明する。
はじめに、$a,b$を正の定数、$x$は$x>0$をみたすとして、
\begin{equation*}
f(x)=a^3+b^3+x^3-3abx
\end{equation*}
の最小値を調べる。この関数を微分すれば、
\begin{equation*}
f'(x)=3x^2-3ab=3(x+\sqrt{ab})(x-\sqrt{ab})
\end{equation*}
である。これより、$x=\sqrt{ab}$で$f(x)$は最小となることが分かる。そして、その最小値は、
\begin{eqnarray*}
f(\sqrt{ab}) &=& a^3+b^3+\sqrt{a^3b^3}-3ab\sqrt{ab} \\ &=& a^3-2\sqrt{a^3b^3}+b^3 \\
&=& (\sqrt{a^3} - \sqrt{b^3})^2 \geq 0
\end{eqnarray*}
であることがわかる。ただし、最後の不等式には、実数の二乗は必ず0以上になることを用いた。以上から、$x>0$のとき、つねに
\begin{equation*}
a^3+b^3+x^3-3abx \geq 0
\end{equation*}
が成り立つので、$x=c$とすれば、
\begin{equation*}
a^3+b^3+c^3-3abc \geq 0 \\
\frac{a^3+b^3+c^3}{3} \geq abc
\end{equation*}
が成り立つ。ここで、$a,b,c$を$\sqrt[3]{a},\sqrt[3]{b},\sqrt[3]{c}$と書き直す。すると、
\begin{equation*}
\frac{a+b+c}{3} \geq \sqrt[3]{abc}
\end{equation*}
が言える。よって、3つの値における相加相乗平均の関係が示せた。
つぎに、データ数が3のときの相乗調和平均の関係式を示す。正の値$a,b,c$に対する調和平均を$s$とかけば、調和平均の定義は
\begin{eqnarray*}
s &=& \frac{3}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}} \\
\end{eqnarray*}
である。これの逆数をとり、両辺に3をかけ、$a,b,c$に関する相加相乗平均の関係式より
\begin{eqnarray*}
\frac{3}{s} &=& \frac{1}{a} + \frac{1}{b} + \frac{1}{c}\geq 3\sqrt[3]{\frac{1}{abc}}
\end{eqnarray*}
となる。ふたたび逆数をとって両辺を3をかければ
\begin{eqnarray*}
s \leq \sqrt[3]{abc}
\end{eqnarray*}
となる。
よって、データ数が3のときの相乗調和平均の関係も示せた。
以上より、値が3つであっても、相加・相乗・調和平均の関係すなわち、
\begin{equation*}
\frac{3}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}} \leq \sqrt[3]{abc} \leq \frac{a+b+c}{3}
\end{equation*}
が成り立つことが言える。
\frac{2}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}} \leq \sqrt{ab} \leq \frac{a+b}{2}
\end{equation*}
という相加・相乗・調和平均の関係が示せた。なお、等号で結ばれるのは、$a=b$のときである。
なお、実際に二つのデータにおいて相加・相乗・調和平均が成り立っていることの例として、学生の評定についての記事を書いたので参考にして欲しい(詳細)。
データ数が3の場合の相乗平均≦相加平均
ここまで、データ数が2の時について見てきたが、値の数がもっと多いときも上で示した相加・相乗・調和平均の関係は成立している。これの証明はなかなか体力のいることなので、別の記事にあらためて書こうと思う。ここではデータ数が3の場合についても相加・相乗・調和平均の関係が成立していることを証明する。
はじめに、$a,b$を正の定数、$x$は$x>0$をみたすとして、
\begin{equation*}
f(x)=a^3+b^3+x^3-3abx
\end{equation*}
の最小値を調べる。この関数を微分すれば、
\begin{equation*}
f'(x)=3x^2-3ab=3(x+\sqrt{ab})(x-\sqrt{ab})
\end{equation*}
である。これより、$x=\sqrt{ab}$で$f(x)$は最小となることが分かる。そして、その最小値は、
\begin{eqnarray*}
f(\sqrt{ab}) &=& a^3+b^3+\sqrt{a^3b^3}-3ab\sqrt{ab} \\ &=& a^3-2\sqrt{a^3b^3}+b^3 \\
&=& (\sqrt{a^3} - \sqrt{b^3})^2 \geq 0
\end{eqnarray*}
であることがわかる。ただし、最後の不等式には、実数の二乗は必ず0以上になることを用いた。以上から、$x>0$のとき、つねに
\begin{equation*}
a^3+b^3+x^3-3abx \geq 0
\end{equation*}
が成り立つので、$x=c$とすれば、
\begin{equation*}
a^3+b^3+c^3-3abc \geq 0 \\
\frac{a^3+b^3+c^3}{3} \geq abc
\end{equation*}
が成り立つ。ここで、$a,b,c$を$\sqrt[3]{a},\sqrt[3]{b},\sqrt[3]{c}$と書き直す。すると、
\begin{equation*}
\frac{a+b+c}{3} \geq \sqrt[3]{abc}
\end{equation*}
が言える。よって、3つの値における相加相乗平均の関係が示せた。
つぎに、データ数が3のときの相乗調和平均の関係式を示す。正の値$a,b,c$に対する調和平均を$s$とかけば、調和平均の定義は
\begin{eqnarray*}
s &=& \frac{3}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}} \\
\end{eqnarray*}
である。これの逆数をとり、両辺に3をかけ、$a,b,c$に関する相加相乗平均の関係式より
\begin{eqnarray*}
\frac{3}{s} &=& \frac{1}{a} + \frac{1}{b} + \frac{1}{c}\geq 3\sqrt[3]{\frac{1}{abc}}
\end{eqnarray*}
となる。ふたたび逆数をとって両辺を3をかければ
\begin{eqnarray*}
s \leq \sqrt[3]{abc}
\end{eqnarray*}
となる。
よって、データ数が3のときの相乗調和平均の関係も示せた。
以上より、値が3つであっても、相加・相乗・調和平均の関係すなわち、
\begin{equation*}
\frac{3}{\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}} \leq \sqrt[3]{abc} \leq \frac{a+b+c}{3}
\end{equation*}
が成り立つことが言える。
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